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2024年11月24日 (Sun)
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2009年08月12日 (Wed)

たぶん、一番好きな短編小説。
今回、今はやりの新訳で読んでみた。
貧乏な「下級官吏」(新訳では下っぱ役人)の、さえない男が、ボロボロになった外套を、給料の何倍も払って新調する一大決心をする。
涙ぐましい節約をして。
仕立て屋にいろいろ注文をつけ、毎日通って出来上がりをうきうきしながら待ち、仕立て上がった外套を誇らしげに着て…という話で。(おちもちゃんとあるのだけど。)
ドストエフスキーの長編のエッセンスを凝縮したような短編で、ペテルブルグの暗くて寒そうな町やそこでつつましく(なんてもんじゃない!)暮らすロシアの人々が、とても親しいものになる。
新訳は、なじめなかった。
旧訳(岩波文庫)の、固いまじめくさった訳文のほうが、この小説の暗いだけじゃないユーモアをひきたてていて、「貧しい」ということがロマンチックでさえある。
新訳は、地の文が落語か漫談みたいな戯文調で、「するってえと、」とかいう。「彼はルンルン気分で、」とか。
ドストエフスキー的気分はまるでない。
私は旧訳に軍配。

うちの店では、秋冬になるとコート類も売る。
(実は心の中では「外套」と呼んでいる。)
服は、毎年使い捨てに近い消耗品となって久しいのだけど、どうも私は潜在的に、そのことに「知らんぷり」をしているみたいなのだ。
この小説の主人公のように、一枚の外套を貴重なモノとして扱いたいのです。
現代の日本では、フリにすぎないけど、知らんぷりしていたい。
古い家具で、裏に墨で日付を書いてあるものがときどきある。
この家具は、持ち主にとってこの小説の「外套」だったんだなあと思う。
「○年○月○日、長男誕生」というのを見つけたこともあった。



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